シネフェスト34
大分時間が経ってしまいましたが、去る3月に、NY州北部シラキュースにて毎年開催されている「シネフェスト」に公式伴奏者の一人として参加して来ました。
今年で34回目の開催となるこの映画祭は、サイレント〜トーキー初期の古い映画に焦点を絞ったフェスティバルで、毎年、全米各地から映画保存・修復のスペシャリストが駆け付け、他ではなかなか見られない貴重な作品が数多く上映されます。
私は2008年〜2010年にも伴奏者として参加していたので、今回は4年ぶり4回目の参加。嬉しいことに、スタッフの皆さんや常連のお客様が覚えていて下さり、演奏前からあちこちで「お帰り!」と声を掛けていただきました。
このシネフェストの面白いところは、毎年、初日前夜に、映画祭のキュレーター氏と伴奏者陣がプログラムを囲んであれこれと相談し、誰がどの映画を伴奏するかをその場で決めるということ。通常は、お仕事を頂く際に映画祭サイドからどの映画を伴奏して下さい、という形で依頼があるのですが、この映画祭だけは、伴奏者自ら手を挙げて立候補することができます。
ただし、何しろ初日前夜まで何を弾くか分からないので、(別のお仕事で伴奏したことのある作品でない限り)事前の準備というものが一切できません。
私のように、無声映画伴奏を始めて10年そこそこというのは、この業界ではまだまだ駆け出しの部類なので、大抵の場合、一度も見たことのない映画をいきなり初見で伴奏(!)することになります。
以前は、全く準備無しで伴奏するというのはとても怖かったのですが、シネフェストを過去3回経験したお陰で大分鍛えられ、最近では「とりあえず何かは弾けるだろう」という、理由のない自信と度胸だけは一人前になりました。(苦笑)
今年は、Ben Modelさん、Jon Mirsalisさん、Jeff Rapsisさん、Judy Rosenbergさんと私の計5名のピアニストが参加、大変豪華な布陣でした。シネフェストでは、他の伴奏者の皆さんの演奏を一日中聴けるのも私にとっての楽しみの一つ。「これが正解」というものが無い無声映画伴奏、人によって色々なアプローチがあるので、他の人の演奏を聴くのは本当に勉強になります。
初日前夜の協議の結果(笑)、今年私が担当したのは以下の5作品でした。
CASEY AT THE BAT (1927)
HOUSEHOLD BLUES (1929)
THE JOY GIRL (1927)
SANDY (1926)
ANKLES PREFERRED (1926)
(この他、短編集上映の際には、皆で交代しながら一本ずつ伴奏したのもとても楽しかったです。)
無声映画伴奏のお仕事というのは何かと予想外のハプニングが付き物なのですが、今回は、私の担当作品中、THE JOY GIRLとANKLES PREFERREDの2本が、ヨーロッパで公開されていたプリントだったらしく、なんと字幕が全部チェコ語…(映画祭サイドも、直前まで気付かなかったそうで、翻訳・通訳の手配ができなかったとのこと。しかし、寄りに寄ってチェコ語字幕の作品に2本とも当たってしまうとは、なんという皮肉な偶然…)。
何しろ字幕の中身が全く解読できないので、 1本目のTHE JOY GIRLは、自分で勝手にストーリーをでっちあげて(!?)伴奏するしかなく、冷や汗ものでした。2本目のANKLES PREFERREDは、幸い、前日に、英語の脚本を入手していただけたお陰で、なんとか話の筋だけは分かった上で演奏できたので助かりました。
また、ANKLES PREFERRED上映の際には、有名な映画評論家のLeonard Maltinさんが、ライブで字幕の英語翻訳を朗読するという役に初挑戦され、「共演」させていただけたのも良い思い出になりました。
5名の伴奏者のうち、Benさんは一日早く帰られたので、全員での集合写真は撮れなかったのですが、残りの4名の記念写真がこちらです。皆さんとご一緒させていただけて本当に楽しかった!(^^)